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その日、支社長の元に収支報告が上がってきていた。
広い机に並べられた報告書を無言で読み進めていく。
時折目の前のパソコンにデータを入力し、また報告書に戻り、さらにデータ入力を行う。
しばらく延々と入力を繰り返した後、データを経営分析ソフトに反映させる。
厳しい表情で操作を進め、業績の上がらない部門をピックアップし、さらに細かく分析する。
結果を表示させ、各部門に対応策を提出させるべく、まとめたデータをUSBメモリに落とし込み、内線で秘書を呼び出した。
「失礼します」
時を置かず落ち着いたスーツの女性が入ってきた。
やや硬質な美貌の女性は、流れるように支社長へ近付き、メモリを受け取った。
「明日の会議で報告させますか?」
「そうしてくれ」
簡単なやりとりの後「承知いたしました」と一礼し踵を返そうとした秘書は、手に持った大きめの封筒を思い出し支社長へと差し出した。
「速達が届いておりました」
封筒を受け取り差出人を確認した途端、支社長の顔色が変わった。
おもむろに引き出しを開け、ペーパーナイフを取り出し…たと思ったら取り落とし、拾おうとして手を伸ばした弾みで机上の書類を落とし撒き散らかす。
その散らばった書類に目もくれず、拾い上げたペーパーナイフで封を開けようとした支社長は、妙に厳重に貼られたガムテープに気が付いた。
「くっ…!切っ先が入らないではないか…!」
ののしりの言葉を上げつつ他に切るものは…とせわしなく見回していると、かすかにため息を吐いた秘書がつと封筒を取り上げ、上着のポケットからカッターを取り出して鮮やかに封を開けた。
「…いつもカッターナイフを持ち歩いているのかね…」
「いつでも必要に応じて使用できるように準備しております」
何故カッターナイフをいつでも使えるようにする必要があるのか謎だったが、支社長の関心はすぐ秘書が持つ封書へと移された。
するりと封筒の中から内容物を取り出した秘書は、手にした数枚の大判の写真を見て口元をほころばせた。
「あら、かわいらしい」
「はははは早く見せたまえ!」
目を血走らせて手を伸ばす支社長にこほんと小さく咳払いをした秘書は、その写真をすぐ見えるように手渡した。
そこには。
いわゆる家庭用ビニールプールで水遊びをする子供が写っていた。
水着で嬉しそうににこにこ笑い、黄色いあひるさんを手にしている子供。
ゆらぐ水面と銀の髪が陽光をはじいて、光があふれ出すようだ。
しばらくわなわなと凝視した後、そっと2枚目を見る。
ホースで水しぶきをかけられ、はしゃぐ子供がいた。
子供特有の高い笑い声が聞こえて来そうな、いかにも楽しそうな1枚だ。
震える手で3枚目を見る支社長は先ほどから瞬きをしていない。
3枚目には水鉄砲で遊んでいる様子が写っている。
撮影者に向かって水を発射させる姿は、ちょっぴりりりしく大変可愛らしい。
既に目が潤んでいる支社長は4枚目に目を移した。
そこに写っているのは水遊びの後で髪がぬれたまま、疲れたのかお昼寝をしている姿だった。
おなかにかけられた水色のタオルの端を握り締めている小さな手。
小さな口からちょっぴりヨダレが垂れているのもさらに愛しい。
しばらくじっと見つめた後、脱力したかのように椅子へと体を預け、目を潤ませた支社長は呟いた。
「……私だってミシェルと水遊びしたい…」
子供の前に出ると緊張のあまり軍隊の将校のごとく直立不動で命令口調になってしまう父親と、厳格な父親(と思っている)の前で緊張して気をつけの姿勢のまま固まる子供と。
水遊び。
支社長が写真を見ている間さくさくと書類を整えていた秘書は、表情を変えず心の中で呟いた。
『無理ですね』
Odd family 2 完
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そんなミシェルももう高校生。
最初は小学生で途方にくれてたけれど、今では楽しい学校生活・そして能力者としての戦いに自分の存在意義を見出しています。